八極拳

八極拳(はっきょくけん)は中国河北省で発祥した武術である。
超至近距離からの肘打ちや体当たりを多用し、その威力は中国武術界でも類を見ない。

日本においても、その特徴的な戦闘スタイルから漫画や格闘ゲームなどで取り上げられ知名度が高い。

八極拳の成り立ち

八極拳は1720年~1730年頃、アラブ系移民の子孫である回族の住む、河北省の孟村で発祥した。

八極拳の開祖は、孟村の呉鐘(ごしょう)という武術家だが、彼がこの武術をどうやって編み出したのかははっきりとしない。
郷土史によれば、呉鐘は 孟村を訪れた謎の拳士から八極拳大槍術を教わったとされる。

呉鐘は村を出て、武術家として名を挙げ “神槍呉鐘”と呼ばれるに至った。北京では清の皇帝の槍術師範を務めた。
後に故郷に帰り道場を開いたところ、各地から教えを乞う者が殺到し、八極拳は広く伝承されることとなった。

八極拳は孟村の近くにある漢族の村、羅瞳にも伝わり独自の系統(漢族の八極拳)を産み出した。
孟村と羅瞳からは多くの優れた八極拳士が生まれ、名を成していった。

彼らは要人のボディーガードとして重用された。清朝最後の皇帝・溥儀や、毛沢東、蒋介石などの警護を務めたのも八極拳士である。

1928年からの中国政府による武術統一施策により、八極拳をすぐに身につけられるよう集団訓練用の簡素な型がまとめられ、後に軍隊の正式科目として採用された。この型は軍隊用八極拳とも呼ばれている

八極拳の技術

接近戦の利点

八極拳の技法は、腕を伸ばし切れないほどの至近距離で戦うことを重んじている。

格闘において、武器や手足がちょうど相手に届く、最も戦いやすい距離というものがある。
しかしこの間合いを破って内に入れば相手はうまく突き蹴りの威力を出せず、対して八極拳の使い手は一方的に攻撃を繰り出すことができる。

この考えは、相手に密着して闘う内家拳太極拳形意拳八卦掌)とも共通している

間合いを詰める技術

八極拳では、相手のふところに飛び込み、最大威力の体当たりを決めることを基本としている。
そのため相手に動きを悟られず、素早く接近する技術が存在する。
箭疾歩(せんしっぽ)」は離れた間合いから、予備動作なしで一気に飛び込んでいく歩法。熟練者は7~8メートルの距離をまばたきする間に詰めることができるという。
闖歩(ちんほ)」は足を踏みこむと同時に、急激に腰を落として敵の懐に入り込む歩法。この勢いを利用してそのまま掌打を放つこともできる。

八極拳の歩法(フットワーク)は上半身の揺れが小さく 動きが目立たないので、距離感を感じさせず接近することができる。

必殺の威力

八極拳の発勁による打撃技は中国武術屈指の破壊力を備えており
相手の防御ごと打ち破るほどの突撃で、攻撃を確実に叩き込むことを主眼に置いている。

その威力の源泉となるのが、床を削るほどの「震脚」(強い踏みこみ)だ。

震脚などの発勁を利用した超至近距離からの掌底や肘打ち、靠撃(肩や背中での突進)が多く用いられる。



有名な技

・鉄山靠(てつざんこう)
背中からぶつかる体当たり。貼山靠(てんざんこう)とも言う
日本では漫画「拳児」や格闘ゲーム「バーチャファイター」の主人公アキラの得意技として認知度を高めた

・外門頂肘(がいもんちょうちゅう)、裡門頂肘(りもんちょうちゅう)
肘からぶつかる体当たり。
外門頂肘裡門頂肘
ちなみに背中や肩での体当たりを靠撃(こうげき)、肘では肘撃(ちゅうげき)、拳では捶撃(すいげき)というが、ぶつける箇所が違うだけで基本的な原理は同じである。

・猛虎硬爬山(もうここうはざん)
八極拳の奥義の一つ。
中段突きから、そのまま同じ腕で肘打ちなどの連続攻撃を仕掛ける。
八極拳の達人李書文の得意技だったと言われている。

・寸勁(すんけい)
相手に手が触れるような距離から体全体をつかい衝撃を通す技。
寸勁は他の多くの中国武術でもみられる技法だが、八極拳ではこのように至近距離から大きな衝撃を与える技術が研究しつくされている。

八極拳と槍術

八極拳を学ぶものは同時に「六合大槍」という槍術を習得する。優れた八極拳士は皆、優れた槍使いでもあった。
そもそも八極拳自体、槍使いが戦場で槍を取り落した時や、懐に入られた時の補助として発達した技術とも考えられる。

八極拳の冲捶(ちゅうすい)という中段突きを見ると、突いたときの姿が槍を突き出している姿勢そのものであるとわかるだろう。


これは槍を操作するときの力の出し方を、素手に応用していることの証明である。もちろん肘や肩、背中での体当たりも同じ原理で威力を出している。

大槍は3m以上もある槍である。この重い槍を自在に突くためには足の踏み込みと呼吸の一致、重心移動の技術をもって行う。これを拳術に応用することで、およそ人を打つには過剰なほどの衝撃力を得ることができる。

また槍を使わない現代の八極拳では、離れた間合いに対応するため、中距離を得意とする劈掛拳蟷螂拳を併せて学ぶ者が多い。

八極拳はどんな人に向いてる?

もとは戦場での殺人術だが、現代では小柄な者の護身にこそ役立つかもしれない。
体得にはある程度の期間を要するが、老齢者や非力な者でも発勁により大きな威力を出すことができる。
小柄な人ほど相手が油断してくれやすいので、隙をついて懐に飛び込むことができるだろう。

ここで注意したいのは、稽古に真剣な者ほど体当たりや震脚の練習のしすぎで脳が揺れ、パンチドランカーのようになってしまう可能性があること。これを防ぐためには適度に力を抜くことも覚えたい。

八極拳を使う有名人

李書文(り しょぶん)(1864 – 1934年)

伝説的な八極拳士。
小柄で痩身だが怪力の持ち主で、試合では一打必倒の妙技で多くの武術家の命を奪っている。
八極拳の実戦性を世に知らしめた功労者といえる。

八極拳はもともと体の大きな回族の豪快な武術だが、小柄な漢族である李書文が練り上げた李氏八極拳はリーチを得るため冲捶(中段突き)を重視し、太極拳のような柔らかい風格となっている。

八極拳を使うキャラクター


剛拳児(拳児)


ジョンス・リー(エアマスター)


結城晶(バーチャファイター)

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